パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学 / 内藤陽介

読書感想文
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中東情勢を理解するのはなかなか難しいので、いろんな角度からチャレンジしています。今回挑戦した本は、「岩のドーム」を題材にした「切手」を軸にしたパレスチナ現代史です。

「岩のドーム」と「切手」、そのままでは象徴・シンボルとしての存在に過ぎないのですが、イスラム学科の卒業生である筆者の知見を駆使することで、各国の様々な思惑を紐解くことができます。

イスラムの聖地である岩のドームの切手をパレスチナの周辺国家が発行する場合、その意味をストレートに解釈すると、エルサレムはイスラム側のものであるというメッセージが込められることになります。特にヨルダン川西岸領域を長らく争っていたヨルダンは、多数の岩のドームの切手を発行しており、本書に頻繁に登場します。

パレスチナと隣接していない国が、岩のドームを切手に用いることもあります。湾岸戦争時のイラクは、リンケージ論によってパレスチナを巻き込んでアラブ社会の支持を得ますが、その影響の一つとして切手に岩のドームが用いられています。

また国内のバランスを調整する役割を岩のドームが担うこともあります。チュニジアが岩のドームの切手を発行した背景として、建前では反イスラエルを掲げつつも、現実を鑑みるとイスラエルを受け入れざるを得ないという状況が解説されています。パレスチナを取り巻く本音と建前は、現代でも垣間見ることができます。

切手に限らずメディアから情報を得る際に、いったいどの思惑を反映しているかを解釈するのは、その背景などをしっかり理解する必要があります。本書は中東の歴史を学ぶだけでなく、シンボリックな情報から何を読み解くかについての示唆を与えてくれます。

筆者のこのシリーズ、先にアフガニスタン現代史の方を読んでいたのですが、どちらも現実路線と強硬路線が度々登場して、調整が一向に進まない場面が多数出てきました。繰り返す混乱を悲観的に見るべきなのか、一歩引いて達観して見るべきなのか、まだ自分の信念が固まっていません。少なくとも、世の中は単純ではないことを心得ておこうと思います。

参考動画①

本書発売当時の動画。岩のドームの歴史が詳しく解説されています。

参考動画②

最近のパレスチナ情勢を、現実的な目線で解説されています。

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