欧米に寝たきり老人はいない 増補版 / 宮本顕二、宮本礼子

読書感想文
読書感想文

先日江戸の乳と子どもを読んで、新しく生まれる命について学んだので、今度は反対側の命についても考えてみたくなりました。

終末期医療

本書では終末期医療について、日本と欧米の違いを医師の目線で解説しています。医療技術の発達で延命という選択肢ができ、日本ではそれがスタンダートの状態になっています。そのため、延命を選択するかどうかを問いかける内容になっています。

筆者は実際に欧米やオーストラリアに赴いて、終末期の患者に過剰な医療が提供されていないことを取材しています。考え方や医療制度に関する日本との違いを並べながら、日本でも尊厳を持った死に方ができないかと提唱しています。なお過去にはスウェーデンでも過剰な医療が提供されていたそうです。そのため、少なくとも宗教の違いは背景にないと説明しています。

本書は初版が2015年で、増補版が2021年に出版されています。ちょうどその間に、日本の終末期医療の考え方が整備されてきました。2018年には厚生労働省から以下ガイドラインが発行されています。

「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂について |報道発表資料|厚生労働省
「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」の改訂についてについて紹介しています。

このガイドラインでは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)を盛り込んでいます。本書ではさらに、「本人の意思」が尊重されるような話し合いの進め方を推奨しています。

本人の意思

本書では繰り返し、「本人の意思」を尊重することを推奨しています。ただ本人は医療の素人でもあり、担当医や家族の考え方にも振り回されるので、なかなか難しいことだと思います。

「本人の意思」の代表的なものとして、NHKの『彼女は安楽死を選んだ』や橋田壽賀子の『安楽死で死なせてください』が本書で紹介されています。前者は批判殺到なのに対して、後者は共感で受け止められたようです。周囲の考え方はスジが通っていないのでアテになりません。

本書の筆者も、終末期患者に近い立場であるものの、本人自身ではありません。メディアや各団体も当然本人の意思とは関係ありません。医療の選択肢が増えたからこそ、各個人それぞれが意思を持つ必要に迫られてきました。

医療制度

「本人の意思」は本人に任せるしかないのですが、医療費負担は国民全員に共通の問題です。本書によると、欧米の政府は高齢者の医療費を抑える方向でですが、日本はガバガバです。それを議論しようとするとメディアが大騒ぎします。

医療制度に関しては複雑なシステムになっており、自分の力不足で本書だけではなかなか理解できませんでした。ただ本質的におかしい気がしていますので、こちらも別途理解を深めたいと思います。

参考

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