埼玉クルド人問題 / 石井孝明

読書感想文
読書感想文

なかなかメディアで深い論考を聞く機会が無いクルド人問題。それもそのはず。当事者だけでなく政府や、業界、さらには活動家など様々な立場の思惑が絡まっているので、簡単に取材するだけでは記事にできません。

筆者の過去の著作は環境・エネルギー関係で、移民や外国人を取材したのは本件が初めてのようです。2023年からこの問題に取り組んだ筆者は、共生という「きれいごと」から現実路線へ転換するべきとの考え方に至り、本書では入管や移民政策の是正を主張しています。

本書には様々なトラブル事例やそれを取り巻く関係者が登場しますが、自分なりに整理すると『クルド人問題は日本人問題』と捉えるのが現実的な解決策に思いました。クルド人側の変容に期待するのではなく、あくまで日本の入管制度で取り締まると。幸い欧米に学ぶべき先行事例がありますので、他山の石としてしたたかに振る舞うことができればよいのですが。

ともすればヘイトにとらわれかねないデリケートな問題なので、本書の表現にはかなり気を使ったとのことでした。しかし何回か登場する『普通の日本人』像については、もう少し配慮してもよかったかも(ウケはいいかもしれませんが)。金持ち自慢や賽銭泥棒は日本人にもいるので、エビデンスを交えないと説得力に欠けるような気がします。

2024年に改正された入管法でどのように変わっていくのか、これからもこの問題に注目していきたいと思います。

参考動画

本書ではカバーできていない埼玉クルド人問題の歴史について。川口の産業やトルコ経済などから解説しています。

参考書籍

一般社会の常識が通用しない人々の話を読んでいると、『ケーキの切れない非行少年たち』を思い出しました。当たり前だと思われている社会通念に対応できない人々とどう向き合うか。少なくとも、野放しにするという選択肢は状況が悪くなる一方だと思いました。

入管の現場の立場から書かれた本もあります。こちらは入国者に対して割と同情的な結論に至っていますが、入管制度の不備が発端という点は共通しています。

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