ヒトはなぜ絵を描くのか / 斎藤亜矢

読書感想文
読書感想文

芸術の認知こそが、人間の本質なのでしょうか。普通に生活している時点で、すでに芸術を体現しているのかもしれません。

芸術×認知科学

本書のエピローグで筆者から「芸術認知科学」という造語が紹介されました。芸術はなんとなくわかるとして、認知科学は聞き慣れない言葉でした。認知というと、「視界に入る」~「理解する」の間くらいでしょうか。芸術をどのようにして認識しているのか、そもそも芸術とは人間にとって何か、という疑問について案内してくれます。

科学的なアプローチの基本は「比較」ですね。この分野では人間とチンパンジーとの比較が定番だそうです。人間もチンパンジーも個体差があるので、もやっとした理解しかできませんでしたが、逆に言うとそれだけ解釈が難しい分野だと思いました。

科学だけあって定義づけや体系化がなされます。
現時点での個人的な理解を残しておきます。
 記号:意味を提供する媒体、何かを伝達する意図があるもの
 抽象:記号を作るために、重点的な要素を抽出すること
 表層:表面に出ていて、輪郭がある

これらの整理が追い付かずに読みなおす部分も多々ありましたが、全体としては初学者にもわかりやすくなるような表現をされていたと思います。

絵の文脈

絵の意味を認識するまでのプロセスが興味深い話でした。同じ絵でも、文脈によっては違う意味になり、一度その意味で認知するとそこから離れられなくなります。よく理解できない絵でも、ピカソが書いたという文脈があればちょっと興味が湧いてきます。これが良いか悪いかはともかく、絵の認知にはそういう要素もあるということを理解しました。

また本書で紹介されたR. C. Jamesの写真では、自分は全くダルメシアンが認知できませんでした。この手の課題は本当に苦手です…。自分には見えない何かが、他人には見えているのだということを思い知らされました。

書くことが「おもしろい?」

本書を一言でまとめたようで、奥が深い話を引用します。

では、なぜ描くのか、と聞かれたら、わたしなら、描くことがおもしろいからだと答える。それでは身もふたもないと思われるかもしれない。しかし、描くことをおもしろく感じさせるのもまた、ヒトが進化させてきた認知的な特性ではないか。そう考えている。

ヒトはなぜ絵を描くのか-芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー) p.73 / 斎藤亜矢

その「おもしろさ」について、社会的な背景や幼少期の原体験などで解説されており、どんどん奥が深い話になっていきます。読み終えたときは、身の回りの色や形、構造が気になって仕方なくなりました。

ヒトとチンパンジーでは、芸術への認知レベルに違いがあるようです。すなわち人間たるものの本質は芸術にあるのでしょうか?一旦周りのアートを見直したくなると同時に、このような分野への理解をさらに深めていこうと思いました。

(参考動画)

ヒトはなぜ絵を描くのか-芸術認知科学への招待 (岩波科学ライブラリー)

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