探究する精神 / 大栗博司

読書感想文
読書感想文

物理の真理を探究するロマンにあこがれます。

考えること

導入部分では、考えることへの出会いから始まります。地球の大きさの求め方や、百科事典の思い出などが楽しそうに語られます。

ここで、簡単なおもちゃの「ういてこい」が出てくるのですが、この原理の説明で自分はつまずきました。浮力の説明はわかるのですが、中の容器が上下に動く理由が読んでもわかりませんでした。結局ネットで検索して、圧力で容器の「体積変化」が起こり、その結果浮力の変化が起こることを理解しました。本書のように「体積変化」の説明を省略するのはよくある話なので、その上で話を理解できる人が基礎科学に進めるのだなと思いました。

序盤でこの調子ですから、本書を読み終えるのは結構時間がかかりました。

学問の分類と仕組み

基礎科学の本ですから、定義づけや分類がしっかりしています。哲学/科学、自然史/自然哲学、目的合理的行為/価値合理的行為、などなど。アカデミックなやり取りではこういう定義づけのステップは当たり前なのでしょうが、普通はおろそかにしがちな部分だと思いますので、定期的にこういう本を読んで影響を受けたいと思います。

日本とアメリカの様々な研究機関に身を置いてきた経験から、その仕組みの違いが説明されています。資金調達、入試、教養、著作権、などなど。例えば入試で筆記試験/人格評価の違いについては、どちらもメリット/デメリットがあります。どちらかが優れているというよりも、本質的なところにエネルギーを注力して、数々の研究機関を運営してきた経緯が語られています。

基礎と応用

本書では基礎科学も応用科学も、どちらも重要であることが説明されています。基礎から応用までを視野に入れた大きなポートフォリオを描くこと、これは学問に限らないと思いました。一般企業の事業計画や個人のキャリアプランでも、短期/長期の時間軸を考えることは必須になります。素粒子の話は理解できませんでしたが、その将来ビジョンに関しては共感できました。

ただし、基礎科学をポートフォリオに収めるには、基礎科学を理解しておかなければいけません。専門家のような知識は求められないにしても、その本質やポテンシャルを見抜く力が求められます。そこで、本書でしばしば出てくるような哲学的な教養が役に立つのでしょう。まさしく本書のタイトル「探究する精神」を持つことが必要になります。

最近はノーベル賞の報道をみても、「よくわからないなぁ」と思ってあまり注目していませんでしたが、これからは「なんだかよくわからないけど、ワクワクする」という感覚を大事にしたいと思います。

探究する精神 職業としての基礎科学 (幻冬舎新書)
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