経済合理性の追求は、一本道ではない。
ドンキの構造になっている本
この本はディスカウントストア、ドン・キホーテの業態について、主にチェーンストアとしての切り口から深堀した本です。一読して、そもそもこの本自体がドン・キホーテの構造になっていると思いました。
まずチェーンストアとしてショッピングモールやヴィレッジヴァンガードとの比較、さらに建築物としての解説があります。これらはドン・キホーテの解説本としては想定の範囲内だと思います。しかしこの本の内容は構造主義や地域共同体、さらに音楽やヤンキーの話にまで及びます。
特に構造主義の話が出たときは、以前に橋爪大三郎のはじめての構造主義で挫折したこともあり、少々身構えてしまいました。本書では構造主義というよりも建築物の構造に関する話でしたが。この章では、ペンギンが内と外の境界で重要な役割を果たしているという考察をしていました。始めは少し当惑しましたが、この本は終始そのようなペースで話が進むので、読み終えるころにはむしろ楽しめるようにまりました。
他にも話は多ジャンルにわたり、どれも興味をひくものばかりです。まるでドン・キホーテで楽しみながら迷子になったような感覚になりました。
ドンキの経済合理性
チェーン店のイメージとしては、経営効率を上げるためには外観や流通などを均質化した業態を想像してしまいます。一方ドン・キホーテの各店舗は、棚が高くて通路が狭いなどの共通点はありますが、様々なところでその店舗の個性が出ています。
その個性の元が居抜きのスタイルです。居抜きいえばタモリ俱楽部に出てくるマニアックな存在だと思っていましたが、店舗経営という観点では割とメジャーな考え方でした。確かにドンキビルのようなイメージは無く、既存の建物に住み着いているようなイメージがあります。ペンギンには居抜き物件で個性を発揮する役割もあります。
そのようなドン・キホーテの業態にして、興味深いのはオールジェンダートイレの導入です。どちらかというと社会貢献のカテゴリーに入りそうな設備ですが、本書ではこれを経済合理性の枠内で説明しています。地域のニーズに合わせて細かく対応することが利益につながるという考え方は、チェーンストアの均質的なイメージを考えると異質なものであり、それが個性・差別化につながっているのだと思いました。
ドンキと社会
本書の序章で、2004年のドン・キホーテ放火事件に触れています。放火された被害者なのに叩かれるという理不尽な扱いを受けました。何かと叩きやすい企業について、本書では様々な角度から評価を試みています。
本書では現在のドン・キホーテに対して比較的ポジティブな評価をすると同時に、今後どうなるかはわからないとも述べています。社会が変化していく中で、各チェーンストアがどのように対応していくのか、今後の動きが楽しみになってきました。