終戦の8月に戦争を振り返る取り組みは多数ありますが、本作は真珠湾攻撃の12月に発刊された本です(元作の2017年出版分も、今回の文庫本も12月発売です)。
単純に振り返るわけではなく、開戦に至る経緯や背景を深堀りするのが本書の目的です。
思想状況を理解する
筆者の戦争解説本としては他にも、お役所仕事の大東亜戦争があります。お役所~の方は歴代内閣を並べて、それぞれの統治機構から戦争への流れを紐解いていきます。一方本書では、右左といった思想ごとに登場人物を分類し、その中心?人物として近衛文麿をピックアップしています。
また本書のキーワードとして「止揚:アウフヘーベン」があります。対立する二つのものを高い次元に引き揚げるという意味ですが、果たして右左(本書では右下、左下も登場する)の対立はアウフヘーベンできるのか、という点が本書の見どころです。
結果は大東亜共栄圏や大政翼賛会なのですが…。
現代と照らし合わせる
文庫版の前書きでは、コロナ禍の情勢と大政翼賛会とを比較しています。自粛警察やマスク警察などのことですね。すなわち、本書の時代背景は現在の状況を映し出す鏡です。
するとその先の未来は…。
筆者が繰り返し、角度を変えながらこの時代を解説している意義はこういうところにあるのでしょう。決して遠い過去の話ではなく、現在進行形で起きている事だと。
未来への意思
本書には賢い人物が多数登場します。ただそれだけでは有事のリーダーは務まりません。本書のあとがきでは、「未来への意思」が必要であると説いています。
さらにその礎には「学問」があると。
私が大学入試センター試験を受たのはもう20年前になりますが、今なお学問に打ちむ必要性があることを思い知らされました。
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