1774年に出版された古典の名作なので、すでにわかりやすい解説が多数あります。それらに匹敵するような深い考察ができるほどの読書経験もないので、直近読んだ本から湧き出た個人的な感想に振り切ってまとめます。
まずは前々回読んだ言語の本質から。こちらはオノマトペを『言語の大局観を与える』ものと位置づけ、それを軸に言語の本質的特徴に迫ります。オノマトペが言語習得の第一歩になる理由は、音の響きがそのまま意味につながることです。「コトコト」と「ゴトゴト」、「カタカタ」と「ガタガタ」を比較すると、清音の方は小さな物音を連想させるのに対し、濁音の方は大きな物音を連想させます。このように文字の綴りだけでは無く、音の響きも意味を構成する要素であるため、オノマトペが備わった文章は初学者でも意味を理解しやすくなります。
ここで今回の『若きウェルテルの悩み』というタイトルについて。ドイツ語の綴りはWertherで、カタカナに当てはまると近いのはヴェルターだそうです。ではなぜ『ウェルテル』と表記されているのか。詳細は訳者あとがきで説明されていますが、『ウェルテル』の方が人物に合っていると訳者が考えたからです。日本マクドナルドを創業した藤田田の本にも似たようなことが書いてありました。英語の発音に近い「マクダーナルズ」ではなく「マクドナルド」としたのは、日本語のフィーリングが理由です。言葉の響きまで追求する翻訳の奥深さを感じました。
もう一つは前回読んだトークの教室から。この本の帯には以下の紹介文が掲載されています。
「この教室の授業のせいで、痛い目にあった時に
本の帯より/トークの教室 「面白いトーク」はどのように生まれるのか (河出新書)
「儲けた〜」と思ってしまう身体になりました。」
若林正恭(オードリー)(広告リンク)
つまり自身のネガティブな体験が糧となり、トークという作品に生まれ変わるということを説明しています。
『若きウェルテルの悩み』には、ゲーテ自身の2つの体験が大きく影響を与えたと言われています。一つは同窓の訃報、もう一つは自身の失恋体験です。本人しか知り得ないこともあるとは思いますが、この時に生まれた感情を作品に昇華することで自身の生が保たれたと言えるのではないでしょうか、25歳で本作を書き上げたゲーテは82歳まで生きています。
本作と引き合いに出されるのが、夏目漱石の『こころ』です。明治天皇が崩御し、乃木大将が殉死したことまでは史実ですが、作中では漱石の心中を投影してさらに後を追わせています。この時点で漱石自身は晩年に近いのですが、なんとか次の作品までは生きながらえています。
一見するとネガティブにとらえがちな事象も、新しい世界を生み出すポテンシャルがあります。文豪になぞらえるのもおこがましいので、一般人にはもう少し安っぽい「アウトプット」という言葉がお似合いかもしれませんが。
広告YouTubeのノブロックTVでよくわからないボケがあったので、わざわざ調べて結局本まで読みました。
ちょうど本書読んでる際に、芥川賞が「ゲーテはすべてを言った」に決まりました。何の因果やら。