今回も13歳からの経営の教科書の岩尾先生のTweetから気になった本に挑戦しました。
ヒトの進化を多分野から検証する
進化論と言えば突然変異や自然淘汰がキーワードになりますが、本書ではサブタイトルである『文化-遺伝子革命』、すなわち文化と遺伝子の相互作用を提唱しています。自然淘汰と聞くとわれわれヒトが頂点に君臨するような響きがしますが、肉体的には弱い生き物です。肉体的な強度(例えば消化器官)を犠牲にして、脳に相当なウェイトをかけています。
その脳自体も成長すれば自然に機能するわけでは無く、長年築き上げた『文化』を学習することで高度なヒトになりえる、ということを本書で学びました。ただその『文化』は自然環境を生き抜く知見や共同体を維持する社会規範など様々です。
筆者は学際的な知見・経験が豊富で、訳者あとがき曰く、その範囲は『人類学、考古学、民族誌学、言語学、行動経済学、心理学、進化生物学、遺伝学、神経科学、スポーツ科学』にまで及びます。
個人的には以下のようなヒトの認知に関わる本を事前に読んでおいたので、ボリュームのある本書もなんとか最後まで読み進めることができました。教養は積み重ねですね。
文化から組織や制度を考える
最終章には本書の活用方法として、組織や制度への応用が載っています。ここでの悪例としては、2003年のアメリカとイラクとの戦争があります。戦争には勝ったものの欧米流の政治制度は定着しなかった背景として、文化の重要性を見落としていたことを挙げています。
アメリカとイラクの例は文化の違いが根深いので難しいのですが、文化を共有する日本人同士なら参考にできるものがありそうです。一つはプレスティージ(prestige)と呼ばれる信望・名声を元にした社会的地位を利用する事です。利他的な行動がポイントだと理解しました。なお古くは年齢とともにプレスティージが上昇していたのが、昨今の早い時代の変化に対応できないとむしろプレスティージは下がるそうです。
また、馴染みのない文化を信用してもらうには、信憑性ディスプレイ(CRED: credibility enhancing display)と呼ばれる、言葉と本心が一致した時に現れる行動で見本・手本を示す必要があります。ちなみに信憑性ディスプレイやCREDで検索してもヒットしなかったので、まだ一般的には浸透していない概念かもしれません。
筆者は、ヒトは組織設計が苦手だとコメントしてますが、続けて、文化への理解で克服できるとも説明しています。『集団脳』を発揮してイノベーションを生み出すためには、文化的なインセンティブを駆使して組織設計が必要であることを学びました。
文化で生き抜く
自由と成長の経済学 / 柿埜真吾では、脱成長の風潮に対して経済学の面から回答していましたが、本書のようなヒトの進化を理解することも一つの助けになりそうです。少なくとも狩猟採集民には戻れない段階までヒトは進化してきました。
これまで意識してきませんでしたが、ヒトが文化的学習を頼りに生きてきたことを本書を読んで思い知らされませした。自らはもちろん、他人も何らかの文化的学習の影響を元に生きていることを理解すれば、世の中が生きやすくなるような気がします。