学問のすゝめ / 福沢諭吉 (伊藤正雄 校注)

読書感想文
読書感想文

選挙前に、考えておきます。

学べるありがたみ

新時代の幕開けに、学問とは何かを説き、さらに学問の場を提供する、すなわち本書と慶應義塾とがセットで生まれました。現在学びの場が充実しているのは、この時代から脈々と学問の伝統があるからでしょう。現在に生きていることを本当にありがたく思います。

私学の志も垣間見ることができます。政府からある程度距離をとった立場で世の中全体を見渡すことが、私学の意義だと感じました。

国民の責任

選挙前にこの本を選んだのは、政治に対して個人がどう向き合うべきかを考えておきたかったからです。

これすなわち世に暴政府のある所以ゆえんなり。ひとりわが旧幕府のみならず、アジヤ諸国古来みな然り。されば一国の暴政は必ずしも暴君暴吏の所為のみにあらず、その実は人民の無智をもってみずから招く禍なり。他人にけしかけられて暗殺を企つる者もあり、新法を誤解して一揆を起こす者あり、強訴を名として金持の家をこぼち、酒を飲み銭を盗む者あり。その挙動はほとんど人間の所業と思われず。かかる賊民を取り扱うには、釈迦も孔子も名案なきは必定、ぜひとも苛刻かこくの政を行なうことなるべし。ゆえにいわく、人民もし暴政を避けんと欲せば、すみやかに学問に志しみずから才徳を高くして、政府と相対し同位同等の地位に登らざるべからず。これすなわち余輩の勧むる学問の趣意なり。

学問のすゝめ 二編 / 青空文庫

暴政治は人民の無知が招くものだから、政治を改めようと思ったら、学問を志すことが必要だと説いています。今世の中で何が起こっているか、学問で培った知性を基に冷静に判断できる力が求められています。

政治の歴史

先人たちの犠牲から学び、少しずつマシな世の中を求めてきた結果が今に至ります。

私裁のもっともはなはだしくして、まつりごとを害するのもっとも大なるものは暗殺なり。古来暗殺の事跡を見るに、あるいは私怨しえんのためにする者あり、あるいは銭を奪わんがためにする者あり。この類の暗殺を企つるものはもとより罪を犯す覚悟にて、自分にも罪人のつもりなれども、別にまた一種の暗殺あり。この暗殺は私のためにあらず、いわゆるポリチカル・エネミ〔政敵〕をにくんでこれを殺すものなり。天下の事につき銘々の見込みを異にし、私の見込みをもって他人の罪を裁決し、政府の権を犯してほしいままに人を殺し、これを恥じざるのみならずかえって得意の色をなし、みずから天誅てんちゅうを行なうと唱うれば、人またこれを称して報国の士と言う者あり。そもそも天誅とは何事なるや。天に代わりて誅罰を行なうというつもりか。もしそのつもりならば、まず自分の身の有様を考えざるべからず。元来この国にり、政府へ対していかなる約定を結びしや。「必ずその国法を守りて身の保護をこうむるべし」とこそ約束したることなるべし。もし国の政事につき不平の箇条を見いだし、国を害する人物ありと思わば、静かにこれを政府へ訴うべきはずなるに、政府を差し置き、みずから天に代わりて事をなすとは商売違いもまたはなはだしきものと言うべし。畢竟ひっきょうこの類の人は、性質律儀なれども物事の理に暗く、国をうれうるを知りて国を患うる所以ゆえんの道を知らざる者なり。試みに見よ、天下古今の実験に、暗殺をもってよく事をなし世間の幸福を増したるものは、いまだかつてこれあらざるなり。

学問のすゝめ 六編 / 青空文庫

引用個所の最後に、「暗殺で世の中が幸せになったことは無い」と断言しています。その意味を理解するには、歴史をしっかりと学ぶことが必要です。なぜ今自分が生かされているのかを求めるために、先人たちの教えを今後も学び続けようと思います。

<参考動画>

学問のすゝめ (講談社学術文庫)
タイトルとURLをコピーしました