2023年2月に上野動物園のシャンシャン、和歌山アドベンチャーワールドの永明、桜浜、桃浜の合計4頭国に返還されました。このニュースの解説に家永氏が呼ばれることがあったのですが、歴史や政治を織り交ぜた解説が非常にわかりやすかったので、一度本を読んでみようと思いました。
パンダ外交の背景
本書では約150年前に発見された中国のパンダの歴史を、中国の近現代史を織り交ぜながら解説しています。日本に関する出来事でいえば、日中戦争、国交正常化、さらに尖閣国有化の場面にもパンダが登場します。各場面でのパンダの立場を押さえることで、当時の情勢に対する理解が一段と深まります。
また現在のパンダのレンタルシステムは、世界での動物愛護の動きも背景にあります。もともと贈与だったパンダは、ワシントン条約を機にレンタルシステムに移行しています。またWWF(世界自然保護基金)のロゴマークにパンダが使われていることからも、パンダが絶滅危惧種の象徴的な存在であることがわかります。「パンダ外交」と一般的に言われますが、外交上の贈呈品を前面に出したわけではなく、あくまで動物愛護が建前になっていることは理解しておく必要があります。
象徴としてのパンダ外交
歴史的な出来事のとともにパンダが登場しますが、外交カードのようにパンダが切り札となることはありません。あくまでパンダは象徴的な位置づけです。ただパンダの動きを追うことによって、外交の微妙な立ち振る舞いを探ることができます。
例えば2011年に上野動物園に再度パンダがやって来ますが、2008年の時点で当時の石原都知事がパンダについて発言しています。この発言について筆者は、
都知事の発言:パンダを意に介さないかのような対応
都知事の真意:賛否どちらでもなく、慎重派(保守派)、パンダ受入派のどちらにも配慮している
メディアの報道:中国に強硬な反応(その方が大衆に受ける)
という見方をしています。メディアは置いといて、都知事の政治手腕がこの微妙な言動に表れています。
また中国と台湾の微妙な関係も、パンダ外交から見て取れます。中国から台湾へのパンダの移動は、中国から見ると国内移動のように、台湾から見ると国際移動のように扱われています。互いの立場を尊重した曖昧なやり取りは、中台の複雑な関係を象徴したものと言えます。
本音と建前、さらには国のメンツが、パンダの扱いに象徴的に表れています。パンダを学べば歴史がわかるとまではいかないにしても、歴史を理解する一助にはなります。
パンダはなぜ魅力的か?
元々パンダは中国でチヤホヤされる存在ではなく、その価値を見出したのは欧米諸国でした。すなわち、パンダを「可愛い」と見なす価値観は人類で普遍的なものではないとのことです。
(参考)
パンダの「可愛さ」はいつ、どこで“発見”されたのか? 意外な「時期」と「国の名前」
上野動物園に初めてパンダがやってきたのは私の生前なので、パンダは愛される存在であることが当然だと思っていました。既成概念を疑うということをパンダで学ぶとは思いませんでしたが、歴史以外にも奥深い存在であることは間違いないでしょう。