ハヤブサを盗んだ男 / ジョシュア・ハマー

読書感想文
読書感想文

生態系の最上位に立つ猛禽類。鳥展の猛禽大集合は人気のコーナーでした。今猛禽類は世界で注目を集めています。

本書のタイトルや表紙からは、ハヤブサの成鳥を捕獲して売買することをイメージしましたが、実際はその卵を巡るドラマです。「卵に何の価値が?」と思いましたが、読み終えるとその物理的に脆い命の源に魅せられる感覚がわかるような気がしました。

登場人物や鳥の種類が多い上に、時系列も冒頭の場面から一度さかのぼる構成になっています。通常この分量(本の厚みは2.5cm)であれば私はメモを取らないとついていけないのですが、今回はメモ無しでも読み進めることができました。卵泥棒とそれを追いかける捜査官という物語の軸がしっかりしており、その他の登場人物を途中で忘れても問題なく、情報量と読みやすさのバランスがちょうどよかったです。

科学技術の進歩でタカとハヤブサが遺伝子的に区別されるようになったこともあり、文中の表記を悩ませたと訳者あとがきにありました。幸い私自身には猛禽類の知識がほとんど無かったので、細かい表記に違和感を感じることなく読むことができました。

随所に野生動物と人間の歴史が盛り込まれており、卵コレクターが古くから存在していたことを解説しています。本書では卵泥棒として罪に問われる主人公ですが、時代によっては評価が変わるのではと思ってしまいます。もちろん現在の法律に基づいて話は展開するのですが、現在の価値観を押し付けるような論調になっておらず、卵泥棒への同情的な描写も含まれています。

緻密な取材を元にした客観性の中に筆者の主観を絶妙に混ぜたジャーナリズム、今まで味わったことのない読書体験でした。

広告
タイトルとURLをコピーしました