読んでるうちに心が痛む本です。ここで感情的になったり、ましてや厭世的になると、せっかく良書に出会ったのに得るものがありません。ここは冷静なるために、過去に読んだ本を参考にしながら感想を書きます。
本書の背景にあるもの
ファクトにたどり着くのは難しい
本書では度々『FACTFULNESS』が引用されています。本書ではファクトに基づかない言説が大量に登場しますが、そもそも人間の認知は歪んていることを理解しておかないと、途中で読むのが辛くなってしまいます。流言は他山の石としながら、冷静に読み進めることを意識しました。
政治家、学者の思考回路
「ポリティカル・コレクトネス」を理解するには、渡瀬氏の著作が参考になります。選挙や業績評価という、彼らの生命線が背景にあるので、一般人の感覚とはかけ離れています。有権者が「世の中を良くしたい」と無邪気に思っても、彼らが解決してくれるわけではありません。むしろ永久に解決しないように誘導するか、飽きて次の火種を探すだけです。
『社会的噓の終わりと新しい自由』では、「自律性」が必要になると説いています。『社会的嘘の~』を読んだ当時は難しいことを言うもんだと思いましたが、今回『「やさしさ」の免罪符 』を読んで、悠長なことは言っていられないなと危機感を感じました。
メディアのスタンス
メディアの基本的なビジネスは、購読数やアクセス数を稼ぐことです。感情に訴えるのがコツです。
石戸氏はニュースの未来を明るいものとしてまとめていますが、それでもファクトを読み解くことは難しいと述べています。またヤフーニュースで目立つことが目的化することの弊害もあります。
結局メディアの記事は、読む側のリテラシーが試されるようです。
自身も「やさしさ」側にいる
ここまで「やさしさ」側のポジションをとる連中を批判的に見てきました。しかし本書にでてくる「Big Black Dog(大きな黒い犬は不人気)」という現象を読んだ時に、実は自分も似たようなものだと気づかされました。本ブログでもペンギンをはじめとした動物の本をよく取り上げていますが、それは自分の動物に対する見方が偏っていることの証左でもあります。自分が決して中立な人間ではないことを、よく理解しておく必要があります。
「やさしさ」と、どう向き合うか
解決する気が無い相手
『具体と抽象』を読んだ時は、これで話が噛み合わない相手を理解できると思っていました。しかし、今回『やさしさの~』を読んで、世の中には話を合わせる気が無い相手もいることを知りました。知性を元にしたコミュニケーション方法には限界があるようです。
法の下での議論
本書にはBLM(Black Lives Matter)の事例も登場します。その主導者は、目的を果たすためなら法を犯すことも厭わないような言動を発しています。無邪気な世代だったらこういう言動にも正義感を覚えたかもしれませんが、当方すでに『学問のすゝめ』という免疫を得ていました。
人民は政府の定めたる法を見て不便なりと思うことあらば、遠慮なくこれを論じて訴うべし。すでにこれを認めてその法の下に居るときは、私にその法を是非することなく謹んでこれを守らざるべからず。
学問のすゝめ 六編 国法の貴きを論ず / 青空文庫
法の手続きは民主主義の根幹ですので、それをないがしろにする輩はやはり信用に足りない存在だとみなしてよいと思います。
本書が提案する解決方法
「やさしさ」側との向き合い方がわからず途方に暮れそうですが、本書では『「被害者文化」に抗う』という項目で複数の方法が解説されています。もはや看過することはできない状態であり、「抗う」必要があると。
一方で、筆者のWeb記事に対して法的な圧力をかける動きもあります。
「抗う」には覚悟が要ります。
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