深夜に寝ぼけながら粉ミルクを調乳するのは大変だなあと思っているときに、粉ミルクが無い時代はどうしていたのだろうとの素朴な疑問がわきました。そこで色々調べていたら、この本にたどり着きました。
乳がつなぐ命
本書は江戸時代の子育てを、「乳」を軸に解説しています。法制度や藩の資料から、絵画・文学作品・日記といった様々な視点から紐解いていきます。生類憐みの令が捨て子も対象にしているというのは勉強不足でした。
当時は必ずしも母親のみが乳を与えるわけでは無いため、「母乳」という言葉は無かったそうです。粉ミルクどころか医療技術も未発達な時代なので、さぞかし苦労が多いことと予想はしていましたが、それをはるかに上回る厳しいものでした。
武士や農民といった階級でも、乳に関わる問題や対応が異なります。特に農民の生活は厳しく、その忙しさから一日に乳を与える回数が3回という記載もありました。江戸時代はたびたび飢饉が起きるので、その悲痛な状況は想像を絶するものと思われます。
いずれにしても子供に与える乳は一つの家庭でやりくりできるような問題ではなく、周囲とのネットワークをフル活用して何とか命をつなぐ時代であることがわかります。
変わる価値観
その後、明治~対象にかけて医療環境や栄養状態が改善されていくとともに、授乳が周囲の助けを必ずしも必要とするものではなくなります。この頃「母乳」という概念ができたようです。すなわち、乳は母親が与えるものだと。
以前は「母乳神話」と呼ばれる価値観もあったそうですが、現在はネットで科学的な情報も得られるので、育て方は人それぞれのような気がします。また母乳バンクのように、乳のネットワークは形を変えて現在も存在しています。時代が変わっても、乳にまつわる関心は今後も尽きないことでしょう。
現在のありがたみ
もともと命をつなぐことで精一杯だった環境が、様々な技術革新のおかげで状況が一変されました。ただ改善されたら改善されたで、今度は新しい価値観が生まれます。「あたりまえ」は常に変わり続けます。だからこそ、一歩立ち止まって歴史を振り返る必要があると思います。
夜泣きに振り回される寝不足の日々も、与えるミルクがあるだけでありがたいのかもしれませんね。