生きる言葉 / 俵万智

読書感想文
読書感想文

文字通り一言一句が左右する短歌の世界の第一人者ですから、「活きる」ではく「生きる」でないといけないのでしょう。言葉が生命体になったと思わせるタイトルです。

その生命体の大きな特徴は長寿であること。千年前の和歌は今も色あせることなく、いまだに様々な解釈を加えられて人々の心を打つ物語が生まれ続けています。

対象的な存在として人間が登場します。本書の始まりは子育ての話題から始まり、後半に萩原慎一郎の最初で最後の歌集に言及してから、最後の章は谷川俊太郎の訃報で締めくくられます。時に儚く一生を終える人間と、その人間が書き残した生きる言葉。そんな不思議な関係が本書に散りばめられています。

読み終えてからは、言葉を探す旅が始まりました。『「も」警察』を自称?する筆者がホストの短歌に指摘する場面があります。そのホストは中島みゆきの時代に出てくる『そんな時代もあったねと』をもじった短歌を作っていました。筆者に言わせると、会話文ではよく使われるこの「も」が短歌では不用意であると。

ここから自分の興味が中島みゆきの語り掛けるような歌詞に移りました。代表的なのが空と君のあいだに『空と君とのあいだには 今日も冷たい雨が降る』。「も」に敏感になることで、むしろ「も」でなければ成立しない言葉を探し出すようになりました。一言一句にこだわりだすと、世界が変わって見えてきます。

筆者はあとがきで言葉を「相棒」と呼びました。向き合うではなく共に並ぶ位置に置いたことで、言葉との信頼関係をうかがわせます。生きる言葉を味方にしていきたいですね。

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