レトリック感覚 / 佐藤信夫

読書感想文
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商品券を頂いたのでノープランで本屋に行き、直感で選んだ本を購入しました。こういう時、最近よく言葉や文章に関する本を選んでしまいます。読書感想文ブログを2年間続けた結果、壁にぶつかって悩んでいるのでしょう。少しずつこの手の本が増えてきたので、新しく言語タグを作成しました。

過去に読んだ本の中にもレトリックは登場しますが、いずれも日本のレトリック教育は欧米に比べると不十分という内容でした。しかし本書を読むと、一概にそうとも言えないことがわかります。様々なレトリックの例文として日本の名文が多数登場します。実はレトリックは身近な存在だということを思い知らされます。

レトリックという言葉には、必ずしも手放しで肯定できない、小細工のようなものを含む響きが感じられるのは私だけでしょうか。まず筆者はレトリックを「ことばのあや(文彩)」と表現し、読者を先入観から解放してくれます。レトリックを網羅的に解説するわけでは無く、ワクワクするような文章でレトリックが生み出すいろどりを紐解いていきます。装飾だと思ったレトリックは、時に文章の本質に迫ります。

前半は直喩と隠喩、いわゆる何かに例える比喩表現です。そのままでは理解が難しいものを、わかりやすく例えてイメージし易くするための技法かと思えば、必ずしもそういうわけではありません。ヤブヘビなどのように、例えの世界でしか知らない存在もあります。もちろん文脈や教養があって成立するものですが、レトリックの奥深さにどんどん引き込まれていきます。

中盤は換喩と提喩。象徴的なものなどを用いて言い換える手法です。赤頭巾ちゃんが例として登場時ます。平安中期以降の天皇の名称は京都の地名を用いたものが多く、これも換喩と言えるのかもしれません。すなわち、日本人には伝統的に慣れ親しんでいるお馴染みのレトリックと言えます。

後半は誇張法、列叙法、緩叙法です。一見難しく感じた緩叙法は、うれしいときに「かなしくはない」、Xだというときに「Xでないのではない」といったややこしい表現方法です。しかしよくよく思い返せば、社会の現場では直接的な表現を避ける場合も多く、実は身近なレトリックであることに気づきました。嫌いな相手のことを「あまり得意ではない」とか言ったり。

本書を読む前はレトリックを難しく考えていましたが、だんだん親しみが湧いてきました。少なくとも、レトリックを味わう余裕はできた気がします。あとは使いこなせるか。試しに一つ、

ペンギンが世直しする日を待ち望まないわけでもない。

当ブログをペンギンに置き換えたのですが、何の文脈も無しに伝わるわけが無いですね。同じく、急に世直しと言われてもポカーンとします。わけでもない、という表現も、もう少しキャラクターを丁寧に説明しないとピンとこないですね。

やはりレトリックは難しい、という結論になりました。これまで以上に名文に敬意を払うことになりそうです。

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