イノベーションを生む“改善” / 岩尾俊兵

読書感想文
読書感想文

何か議論を始める時は、まずの言葉の定義を確認する作業が必要ですが、そこはやはり学者の出番ですね。

身近な言葉の深み

一昔前は「選択と集中」という言葉が流行ってましたが、最近は「イノベーション」を求められるようになりました。一方本書の「改善」は流行りの言葉ではなく、世界中に定着している言葉になっています。海外の技術者から「KAIZEN」の言葉を聞いたときは、なんだか誇らしいのと同時に、実はよく知らないんだよなという思いがありました。

もともとこの筆者の「日本“式”経営の逆襲」を読んでいて興味がわいたのが本書でした。ただ「日本“式”~」が読みやすい内容だったのに対して、本書では議論の前提条件の説明が長くて読み進めるのに時間がかかりました。そもそも「改善」の先行研究がこんなにたくさんあることすら知りませんでした。

組織から「改善」を考える

本書の要点は「日本“式”~」にも記載があるのですが、より詳細で実践的な内容が充実しています。特に身近に感じられたのは、「コンフリクト」を起こさせない仕組みについてです。ボトムアップ型の組織、実現できたら理想的ですよね。また化学系の人間としては「ルシャトリエの原理」の話も興味深かったです。仕事が進む方に平衡状態を移動させることがマネジメントの役割なのだと思いました。

組織の仕組みとして出てくる「ライン内スタッフ」や「技術員室」について、優位性についてはケースバイケースと理解しました。これ以上事例研究を広げてもむしろ混乱が生じると思うので、あとは読者各々が自組織を客観的に見て判断することになると思います。

相互理解を支える定義づけ

本書の調査対象である自動車業界は、資本提携の変遷はあるものの、顔ぶれ自体はそこまで変わらない印象です。一方その上流の素材側、例えば石油・鉄鋼・化学などは再編で会社の名前も大分変わってきています。各会社で独自の慣習もあるとは思いますが、その中でも「改善」は特に各社のカラーが強く出るのではないでしょうか?

そんな時のために、自己流ないしは自社流のやり方だけではなく、その上位概念になるような共通認識を教養として押さえていくことが大事になるでしょう。「改善」のプロセスを分解してパラメータ化することは、ものごとの客観的な見方を得る上で基本的な作業になると思います。本書を完全に理解するまでは及びませんでしたが、エッセンスくらいは身についていたらなと思います。

イノベーションを生む“改善” — 自動車工場の改善活動と全社の組織設計
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